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2020年5月13日 (水)

オランウータンの前での食事問題

ズーラシアの公式アカウントによるツイート(5月8日)が問題視され、
それに対する園のコメント(5月9日)が出ていましたが、
その結果、問題視した人たちが悪いような流れになっていて
なんだかモヤモヤしています。

「問題だ」と考える人たちのリプライを見ても、
(ちゃんと見てないのかもしれませんが)
「問題ない」と言えてしまう人たちがいるという現実。

園のコメントには「不特定多数の人がオランウータンを前にして食事することは
確かに問題だと思います」とありますが、どんな問題なのか書かれていません。
さらに、「信頼関係がある飼育員」だから許容される範囲と判断したとありますが、
問題点を明らかにしていないのに、なぜ「信頼関係があれば大丈夫」と言えるのか、
納得できる説明にはなっていないと思います。

それにも関わらず、園のコメントを見た人たちは、
なぜ「問題ない」と判断できるのでしょうか。

「あの写真が問題視されたのは、・・・という可能性があるためですが、
それについて園としては・・・と考えています」というような形で
きちんと説明して、来園者がやらないように教育する機会だったと思うのですが、
それがなされなかったことが残念です。

しかし一方で、「オランウータンの前で食べてはいけない」理由を
誰もが納得できるように説明するのも難しいと感じました。

オランウータンの前で食べてはいけないことをきちんと説明している園は
どれくらいあるのでしょうか?

私は、円山動物園であのような掲示があることを
今回初めて知りました。
他園でもあるのかもしれませんが、
私はこのような掲示を見たことがありませんでした。

「オランウータンはとても賢いので、
食べている姿を見て、味を想像し、欲しくなります。
でも、彼らに与えることはできません。
それが彼らにとってストレスになります」

だから、オランウータンの前で物を食べないでください、
と書かれています。

しかし、「ストレス」というのは漠然としています。

例えば、「勝手に食べ物をあげてはいけない」ことは、
虫歯になったり、病気になった例をあげて
多くの園が説明しているのを見たことがあります。

ストレスによってオランウータンは、
飼育員さんに対して攻撃的になるのか?
オランウータン同士でケンカしがちになるのか?
便秘になってしまうのか?
それとも、うつ病のようになってしまうのか?
掲示には、そこまでは書かれていないようです。

実際にどのような事例があるのか知りたかったので
海外も含めて記事や論文を探してみましたが、
見つけることができませんでした。
(もっとよく探せばあるかもしれませんが・・・)

調べる中で「visitor effect」という言葉が気になったので、
ネット上で読めるものを読んでみました。

「ORANGUTAN BEHAVIOUR IN CAPTIVITY:
ACTIVITY BUDGETS, ENCLOSURE USE & THE VISITOR EFFECT.」
(CHOO YUAN TING 2011)

シンガポール国立大学の学生が書いた修士論文で、
シンガポール動物園のオランウータンを調査したものです。

かなり長いので、その中で関係がありそうな
Chapter4を読んでみたところ、食べ物のことも書かれていました。

先行研究から、類人猿のいくつかの種は、
来園者が動物と関わろうとすることでより来園者に向けた行動を見せる、
という点に着目し、2タイプの展示場で調査を行っています。

筆者が立てた仮説の1つに、
「食べ物を持っている来園者の存在により、手を伸ばすなど
おねだりの行動がより多くなる」というものがありました。

結果には「仮説通り、食べ物はオランウータンにとって非常に強力な刺激となり、
食べ物が存在するとおねだりや来園者を見ることが大幅に増加した」と
と書かれています。

しかし行動には個体差があり、おねだりが顕著に増えたのは11頭のうち2頭。
また、シンガポール動物園のオランウータンは
人間と一緒に写真撮影などを行っており、
人間との距離が近く、人間に対する恐怖心が少ないことが
「おねだり」などの行動にもつながっているのでは、とも書かれており、
動物園で飼育されているオランウータン全般に当てはまるとはいえないでしょう。

ここで気になるのが、シンガポール動物園では
オランウータンの近くで朝食を食べるイベントを行っていること。
もしオランウータンの前で食べることがよくないなら、
動物園としてこのようなイベントを行ってよいのかという疑問が出るのですが、
著者はそこには触れていません。
むしろ著者は「おねだり」を、来園者に向けたポジティブな行動として分類しています。
攻撃的な行動や常同行動の増加、あるいは親和的な行動の減少などを
ネガティブな行動と考えているようです。

そのような分類をしているので、来園者の行動は、
オランウータンのストレスの明らかな兆候とは関連しておらず、
食べ物を持つ来園者はエンリッチメントになりうるとまで言っています。
私にとって「おねだり」はポジティブな行動とは思えませんが、
シンガポール動物園の考え方が影響しているのかもしれませんし、
先行研究でそう考えられているのかもしれません。

「おねだり」をポジティブな行動と考えたとしても、
おねだりしても食べ物がもらえなければストレスになるのではないか。
それが知りたかったのですが、この論文ではそこまでは調べていません。
オランウータンの気持ちを聞くことはできませんし、
コルチゾールを測定するなどしないとストレスかは判断が難しいので
簡単には調べられないのでしょう。

結局、ストレスの問題はわからないままなのですが、
非常に賢いチンパンジーに関して、
今回の件の延長線上にあるような動画がありました。

「Smart chimp asks zoo visitors for drink」というタイトルの動画です。

 

 

「Scroll in」というサイトにあった
「How a chimpanzee at a zoo explains to a visitor that he needs a drink」
というタイトルの記事(Jul 09, 2017)によると、
このチンパンジーはイギリスにあるWelsh Mountain Zooで飼育されているそうです。

チンパンジーはレジ袋に飲み物が入っていること、
それを小さな穴に流しこんでもらえば飲めることを知っています。
だから、来園者にサインを送って、飲み物を飲もうとするのです。
途中ででてくるバナナは、穴に入らないこともわかっています。

動画に出てくる来園者は全く悪いと思っておらず、
記事もチンパンジーの賢さに着目していて
これが動物にとってよくないことだとは書いていません。

記事には動物園関係者の言葉もありましたが、
このような現場を見てスタッフが注意すると、
来園者たちは「だってチンパンジーに頼まれたから」と言い訳するそうです。
勝手に食べ物を与えている人が「だって欲しがるから」と
言い訳するのと共通しています。

来園者をきちんと教育しなければ、このような状況は避けられないでしょう。

動画のチンパンジーほどはっきりとしたサインでなくても、
「おねだり」をされたら、放飼場のスタイルによっては投げ入れたりして
食べ物をあげてしまう人が増える可能性があります。
このようなことにならないためにも
「類人猿の前で食べ物を食べたり見せたりしてはいけない」のかもしれません。

ストレスに関するわかりやすい事例がないとなると、
この問題を理解してもらうのは簡単ではないと思いますが、
このような問題こそ、遠足の事前学習などで話し合えば、
子どもたちの遠足ももっと有意義になり、
動物園でしてはいけないことなども、身についていくのではないかと思います。

私は私学で探究活動などの取材をする機会も多いのですが、
グループワークや調べ学習をする中で、児童や生徒たちは、
様々な角度から考えて、自分の意見を発表しています。
動物園へ遠足に行くなら、
このようなテーマをぜひ事前学習に取り入れてみてほしいです。
そして、どんな意見が出たか聞いてみたいです。

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コメント

こんにちは 初めまして。
オランウータンの家系図を探していて辿り着きました。
わたくしの地元、福岡市ZOOではオランウータンやチンパンジー等の放飼場に「動物たちの前での飲食をご遠慮ください」という表示があります。
欲しがって可哀そうだから、と。
今度、撮影してきます。

投稿: 猫木 斑 | 2020年6月17日 (水) 16時03分

>猫木 斑さん
コメントありがとうございました!
なぜかコメント通知がされず、今日、コメントに気づきました。ごめんなさい。

福岡市ZOOでは、表示があるのですね。
教えてくださり、ありがとうございました!


投稿: りさーちまにあ | 2021年5月19日 (水) 09時31分

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