オランウータンの話

2020年5月13日 (水)

オランウータンの前での食事問題

ズーラシアの公式アカウントによるツイート(5月8日)が問題視され、
それに対する園のコメント(5月9日)が出ていましたが、
その結果、問題視した人たちが悪いような流れになっていて
なんだかモヤモヤしています。

「問題だ」と考える人たちのリプライを見ても、
(ちゃんと見てないのかもしれませんが)
「問題ない」と言えてしまう人たちがいるという現実。

園のコメントには「不特定多数の人がオランウータンを前にして食事することは
確かに問題だと思います」とありますが、どんな問題なのか書かれていません。
さらに、「信頼関係がある飼育員」だから許容される範囲と判断したとありますが、
問題点を明らかにしていないのに、なぜ「信頼関係があれば大丈夫」と言えるのか、
納得できる説明にはなっていないと思います。

それにも関わらず、園のコメントを見た人たちは、
なぜ「問題ない」と判断できるのでしょうか。

「あの写真が問題視されたのは、・・・という可能性があるためですが、
それについて園としては・・・と考えています」というような形で
きちんと説明して、来園者がやらないように教育する機会だったと思うのですが、
それがなされなかったことが残念です。

しかし一方で、「オランウータンの前で食べてはいけない」理由を
誰もが納得できるように説明するのも難しいと感じました。

オランウータンの前で食べてはいけないことをきちんと説明している園は
どれくらいあるのでしょうか?

私は、円山動物園であのような掲示があることを
今回初めて知りました。
他園でもあるのかもしれませんが、
私はこのような掲示を見たことがありませんでした。

「オランウータンはとても賢いので、
食べている姿を見て、味を想像し、欲しくなります。
でも、彼らに与えることはできません。
それが彼らにとってストレスになります」

だから、オランウータンの前で物を食べないでください、
と書かれています。

しかし、「ストレス」というのは漠然としています。

例えば、「勝手に食べ物をあげてはいけない」ことは、
虫歯になったり、病気になった例をあげて
多くの園が説明しているのを見たことがあります。

ストレスによってオランウータンは、
飼育員さんに対して攻撃的になるのか?
オランウータン同士でケンカしがちになるのか?
便秘になってしまうのか?
それとも、うつ病のようになってしまうのか?
掲示には、そこまでは書かれていないようです。

実際にどのような事例があるのか知りたかったので
海外も含めて記事や論文を探してみましたが、
見つけることができませんでした。
(もっとよく探せばあるかもしれませんが・・・)

調べる中で「visitor effect」という言葉が気になったので、
ネット上で読めるものを読んでみました。

「ORANGUTAN BEHAVIOUR IN CAPTIVITY:
ACTIVITY BUDGETS, ENCLOSURE USE & THE VISITOR EFFECT.」
(CHOO YUAN TING 2011)

シンガポール国立大学の学生が書いた修士論文で、
シンガポール動物園のオランウータンを調査したものです。

かなり長いので、その中で関係がありそうな
Chapter4を読んでみたところ、食べ物のことも書かれていました。

先行研究から、類人猿のいくつかの種は、
来園者が動物と関わろうとすることでより来園者に向けた行動を見せる、
という点に着目し、2タイプの展示場で調査を行っています。

筆者が立てた仮説の1つに、
「食べ物を持っている来園者の存在により、手を伸ばすなど
おねだりの行動がより多くなる」というものがありました。

結果には「仮説通り、食べ物はオランウータンにとって非常に強力な刺激となり、
食べ物が存在するとおねだりや来園者を見ることが大幅に増加した」と
と書かれています。

しかし行動には個体差があり、おねだりが顕著に増えたのは11頭のうち2頭。
また、シンガポール動物園のオランウータンは
人間と一緒に写真撮影などを行っており、
人間との距離が近く、人間に対する恐怖心が少ないことが
「おねだり」などの行動にもつながっているのでは、とも書かれており、
動物園で飼育されているオランウータン全般に当てはまるとはいえないでしょう。

ここで気になるのが、シンガポール動物園では
オランウータンの近くで朝食を食べるイベントを行っていること。
もしオランウータンの前で食べることがよくないなら、
動物園としてこのようなイベントを行ってよいのかという疑問が出るのですが、
著者はそこには触れていません。
むしろ著者は「おねだり」を、来園者に向けたポジティブな行動として分類しています。
攻撃的な行動や常同行動の増加、あるいは親和的な行動の減少などを
ネガティブな行動と考えているようです。

そのような分類をしているので、来園者の行動は、
オランウータンのストレスの明らかな兆候とは関連しておらず、
食べ物を持つ来園者はエンリッチメントになりうるとまで言っています。
私にとって「おねだり」はポジティブな行動とは思えませんが、
シンガポール動物園の考え方が影響しているのかもしれませんし、
先行研究でそう考えられているのかもしれません。

「おねだり」をポジティブな行動と考えたとしても、
おねだりしても食べ物がもらえなければストレスになるのではないか。
それが知りたかったのですが、この論文ではそこまでは調べていません。
オランウータンの気持ちを聞くことはできませんし、
コルチゾールを測定するなどしないとストレスかは判断が難しいので
簡単には調べられないのでしょう。

結局、ストレスの問題はわからないままなのですが、
非常に賢いチンパンジーに関して、
今回の件の延長線上にあるような動画がありました。

「Smart chimp asks zoo visitors for drink」というタイトルの動画です。

 

 

「Scroll in」というサイトにあった
「How a chimpanzee at a zoo explains to a visitor that he needs a drink」
というタイトルの記事(Jul 09, 2017)によると、
このチンパンジーはイギリスにあるWelsh Mountain Zooで飼育されているそうです。

チンパンジーはレジ袋に飲み物が入っていること、
それを小さな穴に流しこんでもらえば飲めることを知っています。
だから、来園者にサインを送って、飲み物を飲もうとするのです。
途中ででてくるバナナは、穴に入らないこともわかっています。

動画に出てくる来園者は全く悪いと思っておらず、
記事もチンパンジーの賢さに着目していて
これが動物にとってよくないことだとは書いていません。

記事には動物園関係者の言葉もありましたが、
このような現場を見てスタッフが注意すると、
来園者たちは「だってチンパンジーに頼まれたから」と言い訳するそうです。
勝手に食べ物を与えている人が「だって欲しがるから」と
言い訳するのと共通しています。

来園者をきちんと教育しなければ、このような状況は避けられないでしょう。

動画のチンパンジーほどはっきりとしたサインでなくても、
「おねだり」をされたら、放飼場のスタイルによっては投げ入れたりして
食べ物をあげてしまう人が増える可能性があります。
このようなことにならないためにも
「類人猿の前で食べ物を食べたり見せたりしてはいけない」のかもしれません。

ストレスに関するわかりやすい事例がないとなると、
この問題を理解してもらうのは簡単ではないと思いますが、
このような問題こそ、遠足の事前学習などで話し合えば、
子どもたちの遠足ももっと有意義になり、
動物園でしてはいけないことなども、身についていくのではないかと思います。

私は私学で探究活動などの取材をする機会も多いのですが、
グループワークや調べ学習をする中で、児童や生徒たちは、
様々な角度から考えて、自分の意見を発表しています。
動物園へ遠足に行くなら、
このようなテーマをぜひ事前学習に取り入れてみてほしいです。
そして、どんな意見が出たか聞いてみたいです。

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2019年9月 3日 (火)

高齢で出産したオランウータンの事例

多摩動物公園の公式サイトに、

ボルネオオランウータン「チャッピー」、次の繁殖に向けて

というニュース(8月30日付)があり、
これはちょっとビックリ。

現在、チャッピーさんは45歳。

2014年6月19日にアピ君を産んだチャッピーさんは、
当時41歳でした(アピ君の父親はボルネオさん)。
国内で飼育されているオランウータンの出産記録では、
最高齢での出産となっています。

2014年7月18日付、公式サイトのニュースには、

「近年野生では推定40歳代のオランウータンが
子どもを連れているところが観察され、
また2005年には豊橋のスマトラオランウータンが40歳で出産し、
母子ともに健康でまったく問題ないという嬉しい報告もありました。
そこで、チャッピーは育児経験が豊富なオランウータンであることから、
6度目の繁殖に踏み切りました」
 
と書かれていました。
(6回の出産のうち1回は死産)

出産の様子については、

「破水から8分後には出産という超スピード安産となりました。
子どもはすぐに産声を上げ、12時40分には授乳も確認できました。
(中略)
安産でホッとしたのも束の間、なんとへその緒が子どもの左腕を
一周するように絡まり下でねじれています。
チャッピーに声をかけて取るように促し、
チャッピーも気にして何度もへその緒に手をかけますがうまく外れません。
とりあえず、ねじれの部分が少し緩まり、腕の下に空間ができたので、
そのままようすを見ることにしました。
通常へその緒は1、2日で2〜3ミリくらいの太さになり、
胎盤の負荷もかかって子どものへそから取れるのですが、
今回は腕に絡まってしまったためか、取れるまでに4日もかかりました」

とのことで、へその緒がアピ君の腕に絡まるというアクシデントがあったものの、
チャッピーさんは安産でアピ君も元気に育っています。

そして、2019年8月30日付のニュースによると、

2018年12月中旬、チャッピーさんに出産後初めての発情が見られ、
まずはキュー♂さん(推定50歳)との同居。
12月中旬から3月上旬にかけて行ったそうですが、
妊娠には至らず。

6月以降はボルネオ♂さん(34歳)とのペアリングを進めていて、
その様子をアピ君(5歳)も見学しているとのこと。

アピ君出産のときは、隣の寝室で姉のミンピーちゃんが見学するなど、
次世代の繁殖につなげるためには、学習する機会を作ることも大切ですね。
しかし、これはどこの園でもできるわけではありません。

さて、ここで気になったのが、
飼育下で45歳での出産は、事例があるのかということ。
海外で飼育されているオランウータンの出産は、
何歳での記録が残っているのでしょうか。

すべてを調べたわけではないので、
最高齢かどうかはわかりませんが、
飼育下のスマトラオランウータンで45歳というのがありました。

アメリカ・セントルイス動物園の公式サイトによると、

同園で飼育されているMerah(1969年5月13日生、50歳)は5回出産していて、
2014年には45歳で娘のGingerを出産。
Merahはとてもよい母親で、娘のRubih(14歳)も
MerahがGingerを育てる様子を見ながら一緒に暮らしているそうです。

公式サイトには、
「Orangutan Baby Born Dec. 14, 2014」というタイトルで、
誕生当時のプレスリリースが掲載されていますが、
Gingerの父親・Cintaは当時10歳と書かれています。
(Cintaは、サンディエゴ動物園から2012年に来園)

45歳と10歳のペアというのにもビックリしたので、
Cintaが生まれた年を調べてみたところ
「The San Diego Union-Tribune」(2004年3月24日付)に
「It’s a boy: Zoo latest baby an orangutan named Cinta 」
という記事がありました。
やはりGingerは、45歳と10歳のペアから誕生したようです。

公式サイトに、50歳の誕生日に撮影された動画がありました。
「Happy 50th Birthday, Merah!」


こちらの動画↓は、Ginger4歳の誕生日。




これらの映像を見る限り、
45歳の高齢出産でも大丈夫な個体もいるようです。

ボルネオさんとの結果がどうなるかまだわかりませんが、
チャッピーさんの体に負担がかからないことを願っています。

 

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2019年9月 2日 (月)

オランウータンの妊婦健診

円山動物園のレンボーさんが、2020年春に出産予定とのこと。

公式サイトには、エコー画像も掲載されています。

HTBニュースによると、同園では、
自発的に検診を受けるようにするためのトレーニングを
2017年から行っているとのこと。
麻酔をかけずにエコー検査に成功した例は、
国内では初めてとのことで、素晴らしいことですね。



円山動物園では、2016年2月26日に生まれたハルト君が、
2016年10月29日に死亡するという、とても悲しい経験をしています。
死因は、S字結腸の捻転および誤嚥性肺炎とのことでした。

おそらく、ハルト君の死を無駄にしないためにも、
飼育員さんたちは多忙の中でも、
トレーニングに取り組んだのではないかと思います。

トレーニングの成功例は、ぜひ他園にもつなげて行ってほしいです。

来年の春には、レンボーさんが無事に出産し、
赤ちゃんが元気に育つことを願っています。


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2019年7月25日 (木)

ズーラシアのオランウータン舎

やっと時間ができたので、
短時間ですがズーラシアへ行ってきました!

でも、写真を整理する時間がないので、
とりあえず、文字メインの記事を書いていきます(^^)。

オランウータンのバレンタインさんやナナさんに
いつになったら会えるのかずっと気になっていたのですが、
遅くなっている理由が少しわかりました。

ボウシテナガザルの「とっておきタイム」の後で
飼育員さんに聞いてみたところ、
ズーラシアの展示場には電柵があるので
電柵に慣れる練習が必要なのだそうです。

多摩の展示場は逃げられない構造になっているけれど、
ズーラシアの展示場はそのままだと
逃げられる構造になっているとのこと。

だから、電柵があり、
多摩では外に出られていたバレンタインさんも
電柵に慣れる練習をしなければならないそうです。

そして、ナナさんについては、
なんと、まだ地面に下りられないそうで・・・。
バレンタインさんもそうでしたが、ナナさんもだったとは・・・。
展示上の構造というのは、各園によって違いますが、
今後リニューアルする園があれば、このような問題についても
考える必要がありそうですね。

他園へ移動したことで、今まで出られていた個体が
出られなくなってしまう状況を作らないためにも、
情報を共有していってほしいなと思います。

ナナさんは、地面に下りられるようになってから
電柵に慣れる練習をするとのことで、
どちらも、すぐに会えそうな感じではありませんでした。

練習するにしても、外の展示場は1つしかありませんし、
休園日にしかできないとなると、時間がかかってしまうのでしょうか。

でも、長いこと出られなかったジュリー君が
やっと出られるようになり、ロビン君と交替で出ているようなので、
まずはジュリー君に会いたいです。

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2019年3月 9日 (土)

国内で飼育されているボルネオオランウータンの今後

旭山動物園のツイッターに、
「3月6日にボルネオオランウータンのリアンが死亡した」
というお知らせがありました。
公式サイトによると、死因は急性くも膜下出血とのこと。
まだ26歳なのに・・・。

台北動物園出身のリアンは、ジャックとの間に、
モモ(2009年4月に事故で死亡)、モリト、モカの3頭を出産。
モカちゃんはまだ4歳になったばかり。
野生のオランウータンは7歳ぐらいまで母親と一緒に暮らし、
いろいろなことを学ぶそうなので、まだ母親が必要です。

今後、モカちゃんがどうなるか気になります。

チェリアちゃんのように代理母に育ててもらえればよいですが、
今回は難しいかもしれません。
旭山動物園がどのような決断をするかわかりませんが、
可能性を考えてみました。

以下、国内で飼育されているボルネオオランウータンです。

☆はジプシーさんの系統。
( )内は母親×父親。

■旭山動物園
ジャック♂(1981年生 ジュリー×キュー)☆
モリト♂(2007年生 リアン×ジャック)☆
モカ♀(2015年生 リアン×ジャック)☆

■釧路市動物園
ロリー♀(1979年生 サリー×ジロー)☆
ひな♀(2010年生 ロリー×タンゴ 人工哺育)☆
りな♀(2014年生 ロリー×タンゴ)☆

※タンゴ♂(イギリス・トワイクロス動物園出身)は
2014年に死亡。バレンタインと血縁。

■円山動物園
弟路郎♂(1997年生 ロリー×タンゴ) ☆
レンボー♀(1998年生 インドネシア・タマンサファリ出身)

※ハヤト♂(2010年生)が2018年にとべ動物園へ移動。

■いしかわ動物園
ドーネ♀(1996年生 推定)
ブロトス♂(1995年生 推定)

※このペアに関する記事はこちら
(国内で飼育されているボルネオオランウータンの血縁関係 その3)

■千葉市動物公園
キャンデー♀(1978年生 ジプシー×ジロー)☆
フトシ♂(1988年生 ハナコ×ジャワ 人工哺育)

■多摩動物公園
ジュリー♀(1965年生 ジプシー×ドン・ホセ)☆
キキ♀(2000年生 インドネシア・タマンサファリ出身)
リキ♂(2012年生 キキ×ボルネオ)
ロキ♂(2018年生 キキ×ボルネオ)
チャッピー♀(1973年生 ジプシー×ドン・ホセ)☆
アピ♂(2014年生 チャッピー×ボルネオ)☆
キュー♂(1969年生 推定)
ボルネオ♂(1985年生 シンガポール動物園出身)
バレンタイン♀(1986年生 イギリス・トワイクロス動物園出身)
※ズーラシアへ戻る予定
チェリア♀(2014年生 バレンタイン×ロビン)
※人工哺育→ジュリー代理母

■ズーラシア
ロビン♂(1991年生 南ジャカルタ・ラグナン動物園出身)
ジュリー♂(1993年生 ペリー×ジュン 人工哺育)
ナナ♀(1990年生 キャンデー×ラーマン)☆

■日本平動物園
ミンピー♀(2006年生 チャッピー×ボルネオ)☆
ジュン♂(1982年生 クリコ×テツ)

■王子動物園
ムム♂(2009年生 バレンタイン×ミミ 人工哺育)

■とべ動物園
ハヤト♂(2010年生 レンボー×弟路郎)☆
 
■福岡市動物園
ミミ♂(1969年生 推定)

■平川動物公園
ポピー♂(2000年生 チャッピー×ボルネオ)☆

■宮崎市フェニックス自然動物園
ハッピー♂(1993年生 チャッピー×キュー)☆

たぶん、これで全部だと思います。

代理母の条件としては、
子育て経験があり、現在、育児中ではなく、
繁殖を目指していない個体になると思います。

多摩では、チェリアちゃんの代理母として
第二候補にミンピーちゃんが挙がっていたそうです。
ミンピーちゃん自身に育児経験はありませんが、
お母さんの育児をそばで見て、
弟の遊び相手にもなってきました。

あのまま多摩にいれば、また候補になったと思いますが、
繁殖目的で日本平へ移動となったので
いろんな意味で難しいと思われます。
もし、実現すれば、
今のミンピーちゃんにとってもよい変化になりそうですが・・・。

個人的には、千葉のキャンデーさんに
試してほしいなと思っています。

キャンデーさんも繁殖がらみでの移動でしたが、
千葉市のリリースによると、
「日本動物園水族館協会・生物多様性委員会
オランウータン計画推進会議において、
5年間繁殖がない雌を移動させ、
積極的に繁殖を図るという方針に基づき、この度、
ブリーディングローンで静岡市日本平動物園に貸し出していた
キャンデーを当園へ移動させることになりました」とありました。

キャンデーさんとフトシ君もうまくいけば・・・という
考えも少しはあるかもしれませんが、
キャンデーさんは4月で41歳になります。

国内で飼育されているオランウータンの出産記録の中では、
チャッピーさんの41歳が最高齢出産。

そして、人工哺育のフトシ君は、
ナナさんと16年間ペアで飼育しても妊娠に至らず、
2015年に3回人工授精の施術を実施しましたが、
それもうまくいかなかったようです。
人工哺育のオスは、「結果」を出せない傾向があります。

そう考えると、キャンデーさんの移動は、
ミンピーちゃんをジュン君と組ませ、
ナナさんをロビン君と組ませることに絡んだもので、
このペアで積極的に結果を出そうとするものでは
ないように思われます。

キャンデーさんはナナさんの母親でもあり、
2010年に日本平のジュン君との間に誕生したクッキーを
2歳になる前に亡くしています。

姉のジュリーさんは多摩でジャック君を産んでから、
やはり日本平に移動したけれど
子どもを授かるチャンスに恵まれませんでした。
しかし、実は子どもが大好きで
チェリアちゃんを実の子のように育ててくれています。

キャンデーさんももしかしたら、
また子育てをしたいと思っているかもしれません。

ジャック君はキャンデーさんと、
多摩から一緒に千葉へ移動して、
しばらく千葉で飼育されていたという縁もあります。

キャンデーさんの性格がどうかわかりませんし、
お互いが受け入れるかもわかりません。
千葉に受け入れ体制があるかもわからないので、
勝手に可能性を考えてみただけですが、
残されたモカちゃんが幸せに暮らせる方法を
考えてあげてほしいです。

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(2016年9月 旭山動物園にて撮影)

<ブログ内関連記事>
国内で飼育されているボルネオオランウータンの血縁関係 その1

国内で飼育されているボルネオオランウータンの血縁関係 その2

国内で飼育されているボルネオオランウータンの血縁関係 その3

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2019年2月 8日 (金)

「ヘウレーカ!」のジプシーさん

2月6日放送の「又吉直樹のヘウレーカ!」で、
ガーデニングやお掃除をするオランウータンとして
ジプシーさんの動画が流れました。

あの部分は、永久保存版です(^^)。

この番組でジプシーさんを見て、
「会いたい!」と思った方もいると思いますが、
ジプシーさんは2017年9月に他界してしまいました。

番組にも出演されていた黒鳥さんの著書
「オランウータンのジプシー」には、
お掃除やガーデニングをするようになった経緯など、
ジプシーさんについていろいろなことが書かれています。

番組を見た後、また読みなおしましたが、
ジプシーさんをはじめとするオランウータンの素晴らしさだけでなく、
オランウータンと飼育員さんとの信頼関係なども伝わり、
何度読んでも心が温かくなります。

あの番組を見て興味を持った方は、ぜひ読んでみてください!

 


 

 

 

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2018年11月18日 (日)

オスのオランウータンが「学習」できる環境

前回の記事で参考にした『動物たちの世界』(朝倉繁春著)には、
モリーさんやジプシーさんの出産についてだけでなく、
ジローさん♂についても興味深い話が書かれています。

ジローさんは上野動物園で飼育されていましたが、
ジプシーさんのペアだったドン・ホセの死後、
1975年に多摩へ移動となりました。

当時多摩には、ジプシーさん、ジュリーさん、サリーさん、
そしてまだ小さいチャッピーさん、7歳のキュー君がいました。

上野では、モリーさんとの間に敬太が誕生していたので、
(モリーさんの娘・初子との間にも赤ちゃんができたが死産)
多摩でもオスとしての活躍が期待されていましたが、
多摩に来てから1年たっても、「その気」にならなかったそうです。

ジローさんがなぜそうなったのか、原因がわからずにいたところ、
上野で飼育担当だったK氏が多摩を訪れたら、
ジローさんは急に、メスたちに接近し始めて「その気」を見せたそうです。

しかし、K氏が帰ると、またもとの状態に。

その後、ジローさんを観察していると、
多摩の飼育担当であるM氏が関係していることが判明。
M氏がいないときや、他の人と話しているときなどは、
ジローさんの動きが活発になることがわかりました。

M氏はオラン飼育の超ベテランで、
背も高く、体格もよかったので
ジローさんはM氏に一目おいていたようなのです。

しかし、次第にM氏への遠慮も薄れてきて、
多摩に来てから1年2ヶ月で「その気」になり、
ジュリーさん、そしてジプシーさんとの間に赤ちゃんができました。

ジュリーさんは死産でしたが、ジプシーさんとの間に
キャンデーさんが誕生。

同書には当時のフィールドノートからの引用があり、
ジプシーさんとジローさんのラブラブぶりなども書かれています。

ジローさんは、すっかり「その気」を取り戻し、
多摩にいたすべてのメスと赤ちゃんを作りました。

ジプシー→キャンデー
ジュリー→死産
サリー→テリー(北京へ移動後1998年に死亡)、ロリー(釧路)
チャッピー→死産

その後、ジローさんは、1995年に他界。

フィールドノートには、ジュリーさんとジローさんの交尾を
「サリーとキュー君が近寄ってみている」とも書かれていて、
近寄って見られる環境だったことがスゴいです。

当時のキュー君にとってはこれがよい「学習」の機会となったようで、
この後キュー君は、メスに興味を持ち、
交尾のまねをするようになったとのこと。

そして数年後、キュー君はジュリーさんとの間にジャック(旭山)、
チャッピーさんとの間にはキューピー(2003年に死亡)、ハッピー(フェニックス)、
サリーさんとの間にユリー(2003年に死亡)が誕生しました。

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(2017年3月 多摩動物公園にて撮影)

キューさんは現在、推定49歳で、オスのオランウータンでは国内最高齢です。

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2018年11月16日 (金)

授乳できなかったオランウータンの「学習」

国内で誕生したオランウータンが
人工哺育になった事例をみると、
母親が赤ちゃんを乱暴に扱うとか、育児放棄するより
「授乳できない」ケースが多いようです。

王子動物園の機関誌『はばたき』などによると、
バレンタインさんがムム君を産んだときも
バレンタインさんは、ビックリするほど丁寧に、そして慎重に
赤ちゃんを抱き上げていたそうですが、
授乳ができませんでした。

以前、金沢動物園で開催された
「平成27年度 よこはまのどうぶつえん 公開飼育研究会」で
担当飼育員さんの発表を聞きましたが、
チェリアちゃんちゃんのときも、
バレンタインさんはチェリアちゃんを
しっかりと抱いていたのに授乳する様子が見られず、
チェリアちゃんがお乳を吸おうとすると
攻撃的な態度を示した・・・と説明されていました。

日本で初めて出産したオランウータン、モリーさんの例もあります。

出産時の様子が『動物たちの世界』(朝倉繁春著)に
書かれていました。

1961年に上野で初子を出産したモリーさんは、
やはり、赤ちゃんを抱いてはいるものの授乳できず、
飼育員さんが介添えをして、10日後ぐらいから
自分でできるようになったそうです。

その後、第2児はやはり介添えが必要だったけれど、
第2児も第3児も自分で育てられたようです。
(同書は1977年発行なので、第4児については書かれていません)

この本には、ジプシーさんについても書かれています。

多摩で4頭の娘を育てたジプシーさんも
最初の出産では、赤ちゃんが泣くと口のまわりをなめたり、
背中をトントンしたりしてあやしてはいるものの
いっこうにお乳をあげようとしなかったので
飼育員さんが赤ちゃんの位置をずらして
授乳を覚えさせたそうです。

ところが、2週間たってもうまく飲ませることができず、
毎日、3、4時間おきに介添哺乳が続けられ、
自分であげられるようになるまで、1ヶ月かかったとのこと。
ジプシーさんがそんなにかかったとは意外です。

さらに、次女のサリーさんのときも、
授乳の様子が見られず、6日間の介添哺乳。

三女のチャッピーさんのときも授乳できず、
1日だけ介添えをしたそうです。
(四女キャンデーさんについては書かれていません)

あんなに何でも覚えてしまうジプシーさんが、
なぜ授乳に関しては覚えられなかったのか不思議。

そのときの様子が、
多摩動物公園の園長も経験している
故・増井光子氏の著書
『動物の親は子をどう育てるか』にも書かれています。

著者も、洞察力のあるオランウータンが
覚えられないはずがないのに・・・と思い、
以下のような推察をしています。

「育児とは、お産のたびに飼育員がやってきて
子どもの世話を手伝ってくれるものだ、と思ってしまったのではないか」

ジプシーさんは、飼育員さんが介添えをする流れも含めて、
育児として学習してしまったのかもしれない・・・ということですね。

クリコさんの例を見ても、きっとそうなんだと思います。

日本平動物園内機関誌「でっきぶらし」には、
ジュン君の母親であるクリコさんの「介添哺乳」に関する記事が
たくさんあります。

クリコさん、初産では赤ちゃんを抱くことすらせず、
育児放棄してしまったようで、赤ちゃんは死んでしまいました。

2度目の出産は、赤ちゃんを抱いたけれど、
ただ、ひたすら抱いているだけで、授乳する気配は全く見られず、
授乳を望める抱き方でもなかったため、やむを得ず人工哺育に。

3度目の出産では、ひょっとしたら自然保育という期待があったものの、
いくら待っても授乳の様子が見られず、介添を試みることに。
クリコさんの場合、その期間は3ヶ月間にもおよび、
自力で吸いつく赤ちゃんの哺乳妨害まであったようです。

4度目(ジュン君)も授乳の介添が必要だったのですが、
担当者が入っていくと、クリコさんはだらりと両手を下げて
担当者が介添えしやすい姿勢をとるようになったとのことで、
それがクリコさんの「学習」だったと語られていました。

バレンタインさん(人工哺育)以外は野生出身ですが、
幼い時に母親と離れ、他の個体が育児をしているところを
見る機会もなく、授乳の仕方もわからなかったのでしょう。

飼育下でも、「オランウータンの育児」を見る機会を作ることが
必要なのだと思います。

その点、弟と一緒に過ごせたミンピーちゃんは非常に恵まれています。
出産の瞬間や授乳など、母親のチャッピーさんのそばで全て見てきましたし、
キキさんの育児も見てきたので、
ミンピーちゃんはきっと授乳も問題なくできるでしょう。

上記の本は、ジプシーさんについて書かれている本として
昨年、多摩のオランウータン舎で紹介されていました。

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(2017年11月 多摩動物公園にて撮影)

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2018年11月15日 (木)

国内で飼育されているボルネオオランウータンの血縁関係 その3

いしかわ動物園で飼育されているドーネさんは、
2015年7月にブリーディーングローンで
福岡市動物園へ移動となり、
お腹に赤ちゃんを宿した状態で
2017年11月にいしかわ動物園へ戻りました。

しかし、今年の2月に死産。

体調などが心配されましたが、現在は元気にしているようです。

いしかわ動物園では、ブロトス君(推定22歳)とドーネさん(推定21歳)を
1999年から飼育していますが、
ドーネさんがいしかわ動物園へ戻ってきたときのリリースによると、
「2頭とも性成熟に達していましたが、交尾行動が見られなかったため、
この2頭の貴重な血統を活かすため、
ドーネを福岡市動物園に貸し出し繁殖を試みていました」とのこと。

「貴重な血統」とあるように、2頭とも野生出身です。

このペアで赤ちゃんが誕生するのが一番よいですが、
「交尾行動が見られなかった」とあり、
小さいときからずっと一緒に過ごしていたから
兄弟のような感覚になってしまったのかもしれません。

ちなみに、ドーネさん(推定21歳)と福岡のミミさん♂(推定48歳 野生出身)も
かなり年の差がありますが、仲良くなれたようです。
(ミミさんに関するブログ内の関連記事はこちら


2016年2月25日に撮影された2頭の様子が、
福岡市動物園の公式ブログで公開されていました。

2015年7月に福岡へ移動して、
11月末からお試し同居をはじめて
時間をかけてゆっくりと仲良くなっていったようです。

福岡市動物園の公式ブログには
『オランウータン「ミミ」「ドーネ」のお試し同居』というタイトルで
仲良くなっていく様子が記録されています(「その4」まで)。

ミンピーちゃん(11歳)とジュン君も(36歳)も、
こんな感じで仲良くなれることを願っています。

ドーネさんが今後、どこへ移動するかわかりませんが、
個人的には、ブリーディングローンで移動する前に
多摩でキキさんの育児を見学する機会を
作れたらいいのにと思います。

なぜならば、人工哺育でなくても、
幼い時に母親から離れて動物園で暮らしていた個体は
育児ができない傾向があるからです。
(詳細については次の記事で)

日本平のジュン君とペアになったベリーさんの母親ハナコさんも
野生出身でしたが育児ができずベリーさんとフトシ君は人工哺育。
ジュン君の母親クリコさんも育児ができず、
飼育員さんの介添えが必要でした。

そして、あのジプシーさんでさえ、飼育員さんの介添えが必要だったのです。

育てられるかもしれませんが、
育てられないとわかってから動いても、
チェリアちゃんのように、
よい代理母が見つかるとは限りません。

バレンタインさんは、30歳をすぎて
多摩で他のオランウータンから様々なことを学び、
やっと「オランウータン」としての生活を始めることができました。

バレンタインさんとチェリアちゃんの移動が実現できて
本当によかったと思います。

送り出す側も受け入れる側も、いろいろと大変だったと思いますが、
オランウータンたちの幸せを考えたら
移動させることが一番よいと判断したから実現できたのでしょう。

ドーネさんに関しても、
もう、どこの園の所有とかは関係なく協力して、
ドーネさんが母親になれるように
できる限りの準備をしてあげてほしいなと思います。

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2018年11月14日 (水)

国内で飼育されているボルネオオランウータンの血縁関係 その2

今年はボルネオオランウータンの移動が多く、
円山動物園からはハヤト君(8歳)がとべ動物園へ
ブリーディングローンでの移動となりました。

ただ、とべ動物園で飼育されているのは
スマトラオランウータン♂1頭なので
ペアになる相手はまだいません。

ハヤト君より年上のオスが他にも2頭、
多摩からブリーディングローンで
19981年に宮崎市フェニックス自然動物園へ、
2014年に平川動物公園へ移動していますが、
どちらもまだパートナーはいません。

国内で飼育されているボルネオオランウータンの約半数は、
ジプシーさんの家系です。

フェニックス自然動物園のハッピー君(25歳)、
平川のポピー君(18歳)、
どちらもジプシーさんの孫。

ハヤト君の父親・弟路郎君は
故・タンゴ君とロリーさんの子どもであり、
ロリーさんはジプシーさんの孫。

つまりハヤト君も、だいぶ薄まってはいますが
ジプシー系となります。

ジプシー系ではないメスを調べてみると、
非常に少ないです。

レンボー 20歳(円山動物園)→ハヤトのお母さん
リアン 26歳(旭山動物園)→育児中
キキ 18歳(多摩動物公園)→育児中

バレンタイン 32歳(ズーラシア)→多摩へ留学中
チェリア 3歳(ズーラシア)→多摩へ留学中
ドーネ 推定21歳(いしかわ動物園)

パッと見ただけでも、厳しい状況です。

ジプシーさんの家系のほかに気になるのが、
弟路郎君の父親・タンゴ君の家系。

タンゴ君はイギリスのトワイクロス動物園から
釧路市動物園に来ましたが、
バレンタインさんと同じ両親から誕生した、
バレンタインさんの兄。

つまりハヤト君は、バレンタインさんや
その娘であるチェリアちゃんとも血縁があります。

繁殖計画の際、どこまでの血縁を考えるのかわかりませんが、
現状のままでは、国内で「血縁がない」パートナーを探すことは
非常に難しいでしょう。

関係を図にすると、こんな感じだと思います。

 

Photo

「血縁がない」という点で非常に貴重な存在となる
ドーネさんについては次の記事で。

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